マミヤシックス・オートマットによるスプリングカメラの完成

マミヤシックス・オートマットは,歴史上特筆されるべきカメラだ.というのは,スプリングカメラを含め,あらゆる中判の折りたたみ式カメラ(フォールディングカメラ)の中で事実上最初にセルフコッキング機構を搭載したからだ.この点は私にとっても非常に重要で,コレクションに是非加えるべきカメラとして以前から適価で状態の良いものがないものか,と探していた理由もここにある.

折りたたみ式のカメラは古今東西,様々な形式のものが出現した.もっとも代表的なものはツアイスイコンのイコンタシリーズやフォクトレンダーのベッサシリーズなどのスプリングカメラが挙げられる.他にもいわゆるプレスカメラと言われるような,レンズボードをレールに沿って引き出すものや,新旧プラウベルマキナのようなクラップ形式のものがある.しかしそれらのカメラでは,ボディとレンズとの位置関係が変化するためにその間の連動機構が省略されているものが多い.

操作性を向上させるための連動機構のうち,主要なものは3種類であることはレチナのページでも紹介した.すなわち,レンズ付近でなくボディ側に備わるシャッターボタン,レンズの繰り出しに連動した距離計,そしてセルフコッキングである.しかし意外にこの3点を全て備えた折り畳みカメラは少ない.特に中判カメラに関して言えば,近代になって登場し,「復活」とか「懐かしの」などの枕詞を添えられたようなカメラは別として,堂々と現役を張った時代のものとしてはこのマミヤシックス・オートマットしかないと言っても過言ではない.

そこで私が所有するカメラのうち,これら3点の連動機構を全て備えた折りたたみ式カメラを並べてみた.後列は35mmカメラ(135フィルムを使うカメラ)で,左からコダック・レチナIIIc(黒)アルコ35オートマットDコダック・レチナ IIa(ニッコール装着改造)である.また前列は中判カメラ(120フィルムを使うカメラ)であり,左から順に,富士フイルム フジカ GS645 Professional, PLAUBEL makina67, そしてマミヤシックス・オートマットである.そして詳細についてはそれぞれのカメラの紹介ページを参照されたいが,このうち金属製のトップカバーを持つ後列3台と前列右端の1台の,計4台は1950年代のカメラである.それに対し,他のカメラはそれぞれ 1979年と1983年のカメラであるから,はっきりと時代が異なることが分かる.他には,このページで紹介するマミヤシックスの直系の子孫であり,デビュー当時は「名機復活」と話題になったニューマミヤ6があるが,これも近代型中判RFの仲間であろう.このカメラは折り畳みカメラ(カメラ側に沈胴機構がついたカメラ)でありながらレンズ交換が出来る,他に例をみないものである.

ここで簡単にそれぞれのカメラの仕様を比較してみた.

機種画面サイズレンズ重量畳んだときの薄さ
Retina IIa(ニッコール改)35mm50mm F2.5530g45mm
Retina IIa35mm50mm F2580g45mm
Retina IIIc35mm50mm F2650g46mm
Arco3535mm50mm F2.4680g52mm
GS6456x4.575mm F3.4820g56mm
GA6456x4.560mm F4815g66mm
Mamiya66x675mm F3.5850g55mm
Makina676x780mm F2.81,250g56.5mm

使用するフィルムが異なるレチナが軽く小さいのは当然としても,意外と近代のカメラは重いのだということが分かる.近代のカメラはどれも性能の良い露出計を持つこと,ファインダに採光式ブライトフレームを備えること,マキナについては画面サイズの割りに非常に明るいレンズを搭載していることもあり,ある程度重いことは仕方がない部分もあるが,こうして比較してみると,やはりマミヤシックスの画面サイズに対する軽さと薄さが際だつようである.特にこれらのカメラのうち3種はいわゆるレンズキャップに相当する「蓋」を内蔵しているためキャップの取り忘れという重大な失敗を犯す心配が無く,収納にも便利というのは意外に大きいポイントである.

こうしてボディとレンズが完全に連動するカメラを揃えて改めて観察してみると,それぞれにたいへん凝ったメカニズムが採用されていることも興味を引く.レチナは小型ながら連動機構は大変上手にまとめられており,特にセルフコッキング機構に関しては割りを入れた丸棒の上をピニオンギアがスライドするという,いかにもドイツらしい機械工作のうまさを見せてくれるシステムとなっている.それに比べGS645は,蓋部分の内側に細かいプラスティック部品やプレス加工された薄板が多数装着されており,必要以上に複雑であるだけでなく,やや信頼性を欠いたメカであるように感じられる.実際,不具合は少なくないようで,特にシャッターレリーズについてはボタンの押し下げ力を直接シャッターへ伝達するのではなく,シャッターボタンの押し下げにより固定解除された部品がバネがの力により走行することでシャッターを蹴るようになっている点がまずいようだ.またそのためにタイム露出のみレンズ側のボタンで行うようになっている点や,シャッターをチャージしないと折りたためないなどの制約を持つ点,他にはレンズの固定機構がまずく確実に操作しないとレンズの固定が不十分となりがちである点などでスマートとは言い難く,穴があきやすい合成皮革の蛇腹を含め全体的に品質の低さを感じさせる.レンズが良いだけに惜しいカメラである.

マキナ67は,オリジナルのマキナの設計を踏襲するという難しい課題を与えられながらうまくまとめられており,レンズを格納するためのX字型のたすきをそのまま用いてレンズを前後させる点が独特である.コッキングとレリーズについては, リンケージ内を通された1本のワイヤの巻き上げと弛緩により行っており,その意味では GS645 と同様であるが,ワイヤにかけられたバネが強力であるためシャッターの動作に不安はない.シャッターを押した時点で途中まで弛緩し,さらにシャッターを離した時点で残りを弛緩する方法を採ることで,ボディ側のシャッターボタンでバルブ露出が出来るようになっている点も面白い.

そして最後にマミヤシックスであるが,これは有名なバックフォーカシングシステムを採用することで難しい連動の問題を見事にかわしている.

上の写真は内部のフィルムゲートの前進・後退の様子を示したものである.カメラ後方に突き出たギアを,カメラをホールドした右手親指で回転させることで軽くスムーズにフィルムゲートが前後する.フィルムゲートの4隅にそれぞれカムが設置されており,それらは細い軸やギアで違いに連結されているため,平行性も問題にならないと思われる.そしてこれによりレンズとボディとの位置関係が不変となり,同時にその間の距離計連動機構が不要となることで,結果的にセルフコッキングの搭載も容易になったのではないかと思われる.

バックフォーカスを採用していないカメラではどうか.レチナや GS645,マキナ67等はもちろん前玉回転式ではなくレンズ全群を前後させているために,同時にシャッターユニットそのものも前後に動かさねばならない.そのためその前後移動量を吸収するための構造が,セルフコッキングとレリーズのメカニズムの両方に必要とされるのだ.具体的には,幅を持たせたギアを搭載し,ギアの歯のかみ合い位置が軸方向に移動するメカニズムを搭載していたり(レチナ),ワイヤーを使ったり(マキナ67),光軸方向に長さを持たせたピンで連結部分を蹴るようにしたり(GS645, レチナ),という苦労を背負い込んでいる.また同時に,距離計の連動機構(レンズの前後移動量をボディへ機械的に伝達する機構)を折り畳み時に待避するという難題も抱えることになる.特にこの部分はバックラッシュ(がたつき)が許されない部分であるため,設計には工夫が必要であろう.マキナ67と,マミヤ6がともにボディ側に距離調整ノブを持つというのは単なる偶然ではないように思われる.折り畳みカメラでは,レンズとボディとががっちり固定されているわけではないので,レンズ側のヘリコイドを捻るような操作が不要であるというのも精神衛生上良い.

この「レンズとボディとの位置関係が変化しない」ということは別のメリットも生み出している.それは,カメラを畳むときに距離を無限遠に戻さなくても良いという点だ.レチナや GS645 は折り畳む前に距離を無限遠に合わせなければならないが,マミヤ6ではこの点を考慮する必要はない.なおマキナ67はいつでも畳むことが出来るが,マミヤ6との微妙な違いを挙げるなら,畳んだ状態でも距離計が動くのはマミヤ6だけだということになる.

ただしこのようなマミヤにも欠点はあり,畳んだ状態で巻き上げノブによりフィルムを巻き上げても,シャッターがチャージされないということは知っておく必要がある.この場合はカメラを展開してからシャッターを手動でチャージすれば良い.

個人的には,これほど状態の良いマミヤシックスには触れたことがなかったため,マミヤシックスの品質が非常に高いことに驚かされているというのが正直な感想である.特に上下のプレス部品のエッジの効いた面取り仕上げやメッキの質感,切削加工された各金属部品の輝きや塗りの滑らかさなど,同時期のニコン等(S2型の時期)にも比肩しうる内容だと思う.シリアルナンバーからは,装着されたズイコーレンズもかなり後期のものであるらしく,曇りも一切見られないのはうれしい点だ.最終型の「オートマット2」とは異なり,ファインダにブライトフレームは備わらないものの,ボディに厚みがあるからかこの種のファインダとしては視野の境界は比較的はっきりしており,見た目も明るいというのも良い.


特注の革ケース

マミヤ6オートマットを使用する上で現代のカメラとの違いを感じる部分の1つに,ストラップラグがボディ本体にないことが挙げられる.本来は革ケースに入れたまま使うことが想定されており,従ってカメラ単体ではストラップで吊ることが出来ない.当時はそのような使い方が主流であったとはいえ,現代までこのように状態の良いカメラが残っているのもまた革ケースあってのことである.しかしたいてい革ケースは傷んだり革が硬くなっていたりして,ちぎれそうになっているものもある.私の場合ケース無しで購入したのだが,おそらくずっと一緒にあったはずのケースは状態が悪く処分されたのだろう.

そこで革ケースを1点から特注で製作してくださる,カメラ.ヒラノにこのカメラを送って作ってもらった.ごらんの通りとても良い出来でしっかりしており,真新しい革の香りもすがすがしい.背面については,ピント合わせに支障がないように少し高さを下げていただいた.またさらに,私の好みでストラップ部分には長さ調整金具を付けないように製作していただいたが,このように細かい注文にも応えていただけるのが1点製作のまた良いところでもある.


マミヤ6用 オートアップ(接写装置)

マミヤシックスに対応した接写アクセサリ,オートアップ.詳細はレチナ用のオートアップのページを参照ください.


マミヤ6オートマット 当時の広告


マミヤシックス・オートマットの広告(クリックで拡大).
(アサヒカメラ 1956年11月号 表2より)
セルフコッキングが世界唯一であると述べている.
オートアップについての記述もある.

同誌広告によると,主要なカメラの価格は以下の通り.

マミヤシックス・オートマット29,500円
スーパーフジカM24,500円
パールIII24,800円
ミノルタオードコード29,800円
ニコンS2(F2付き)68,500円



その他の外観写真